大きすぎる目標や憧れは、何も実現しないリスクを伴う。自分の価値観を作り上げ、小さな達成を積み上げることが成功へと導いてくれる。
若い世代の中には、成功者や起業家に憧れる人も少なくないのではないでしょうか。しかし、実際にはなかなか叶えられないという現実もあります。貴重な時間を無駄にしないためには「他人に惑わされず、自分の価値観を作る」と、長谷川稔氏は語っています。今回は、長谷川氏が経験から得た20代の大切な生き方と思考をお聞きしました。
長谷川 稔(はせがわ みのる):北海道出身。独学でイタリア料理を学んだのち、北海道江別市に「リストランテ薫」をオープン。ミシュランガイド北海道にて1つ星を獲得し、2018年には自身の名を冠した「長谷川稔(現 薫 HIROO)」を東京都広尾にオープン。現在は「長谷川稔Lab」のプロデュースをしながら、週2日の「長谷川稔」でシェフとして腕を振るっている。
理不尽な環境で培った価値観の土台
─長谷川さんが学生時代を振り返って、学んでよかったと思うことはありますか
当時は心から嫌でしたが、厳しすぎた縦社会は結果的に学びが多かったですね。礼儀やあいさつ、目上の人との関わり方など、社会生活では学問より役立っていると感じます。また、料理人の修行中は学生時代とは違う、理不尽な環境ならではの学びがありましたね。
─理不尽な環境からの学びとは、どういう内容でしょうか
一般的に、職人の世界は上下関係が厳しいですが、それが悪い方向に作用してると思うんです。上司の物差しで物事を押し付けられたり、意見しようものなら「お前ごときが」と否定されたり。上下関係は大切でも、これでは人を育てる環境とは言えません。仮に有能な人材でも、いずれモチベーションを保てず辞めてしまいますよ。私はこんな理不尽な環境は絶対に作らないですね。上に立つ人の役目は、眠っている才能をいかに開花させてあげるかだと思ってます。
「見て覚えろなんていう育て方は根本的に間違ってる。有限の時間として無駄だし、お互いにとって効率が悪すぎます」
成功者の発信を鵜呑みにしてはいけない
─長谷川さんの経験を踏まえて、これから社会人となる学生たちにアドバイスをいただけますか
未来に対して過度な期待をしないことかな。若い人ほど大きな夢を持ったり、大物に憧れたりすると思うんです。もちろんそれはそれで素晴らしい姿勢です。危ないのは、成功者や有名人が言う、もっともらしい成功論を真に受けること。現実にはほとんどは叶わないし、真似すらできないですから。大半の成功者は、休みどころか食事や睡眠すら削ってたどり着くんです。キラキラの表面だけを見て憧れすぎるのは危険だと思います。
─成功者がたどり着くまでの、裏側にある見えない努力は誰もができるほど簡単ではないと
その通りですし、大きすぎる目標を一旦、あきらめるのも大切だと思います。まずは、身の丈に合った目標を設定して、現実的に達成しやすくする。小さな達成を積み上げるうちに、大きな目標に挑戦できるレベルになるかもしれません。少なくとも、初めよりは確実に成長してます。自分をしっかり見つめ、身の丈に合う挑戦をするほうが良いと思います。
─身の丈に合った目標や課題の設定のために、どのような思考を持つべきでしょうか
成功者の言葉や、書籍にあるような世界だけが幸せだと思わないほうがいい。年収が1,000万でなくても、自分の仕事に誇りを持つ人はたくさんいます。豪邸に住まなくても、家族と幸せに生きる人もいる。一方で、多くのものを手に入れたにも関わらず、不幸な人生を送る人もいるんです。表面的な情報に惑わされず、自分だけの価値観を作り上げて欲しいですね。
今の行動が10年後の自分を作る
─では、社会人となって間もない20代のビジネスパーソンに向けてのアドバイスはいかがでしょう
40代になって、改めて間違いないと実感したことがあります。それは、「今やっていることが10年後の自分を作る」が本当だということ。新社会人はスキルもなく、人脈も実績も当然ありませんよね。そこで、20代のうちは目の前の仕事に真剣に取り組んで欲しいんです。するとどうなるか。20代で積み上げた実績が、30代を生きるスキルや経験、人脈などの武器として手に入るんです。数ヶ月や数年で「ダメだ」という人がいますが、そんな短期間で変化しないのは当たり前です。
「何も持ってない20代でいきなり突き抜けるなんて無理。小さな達成を積み上げていけば、10年後にはスキルも人脈も自然に手に入ってますよ」
─確かに、ちょっとがんばったらどうにかなると思ってる人はいますね
どんなことでも短期間では無理ですよ。ダイエットや筋トレだって、数日やっただけでは思い描く姿にならないじゃないですか。ビジネスともなれば、大きく飛躍するには最低でも数年は必要です。これは経営論や哲学の次元ではなく、確実な原理原則だと思ってます。
長谷川さんがオープンさせた「薫 HIROO(旧 長谷川稔)」は、開店1年目にして数々の賞を総ナメし、予約の取れない人気店としても有名です。ただ、長谷川氏の輝かしい実績の裏には、かつての厳しい修行があったことを忘れてはいけません。「今やっていることが10年後の自分を作る」という長谷川さんの言葉は、超20代の読者にとって価値ある教えと言えるのではないでしょうか。
会社名 | 株式会社KAORU |
住所 | 東京都港区南麻布4‐5‐66 |
代表 | 長谷川 稔 |
設立 | 2017年09月 |